第34回 :センター試験日本史を振り返る!


 

はじめに――長いお休みでした――

 ずいぶん休眠状態でほったらかしにしていたこのコーナー。私自身も忘れていて、時々何かの調べものをするために、ネット検索をすると、自分の関心と同じ人がいると思ってそのページを開くとこのコーナーに昔自分が書いたものだったりして、「なぁ〜んだ。自分の書いたページやん」ということを経験するほどほったらかしの状態でした。

 まぁ、そんな人はごく限られた方でしょうが、もし、このコーナーの更新を待っていらっしゃった方には「長い間、ほったらかしですみません」と素直に謝っておきます。このページの管理人兼大枠の作成を担当しているK氏がどうやらようやく元気になったようですから、とりあえず再開します。

 リニュアールを記念(!?)してというか、最近の私の関心が大きく変化したこともあって、日本史だけでなく、世界のこともというので、「日本史と世界のあれこれ」というコーナー名に勝手に変えさせてもらいました。前のコーナーでもすでに、ベトナムのことなどを紹介させていただいていたのですが、この間、大学の授業で「国際福祉論」などの授業を担当させていただいたり、非常勤で「国際情勢の理解」などという授業を担当させていただいている関係で、本業の(?)の近現代日本史の方は開店休業状態になっています。但し、根っこというか、基本はあくまで日本史にあるつもりなのですが…‥あまり説得力はないようです。

 それで、再開第1回目に何を書けば良いのか、と少しばかり悩んだ結果、やっぱりセンター試験について考えてみたいと思いました。


1.センター試験全般――特にリスニング試験について――

 今回の試験は、初めてリスニング試験が導入され、いくつかの試験場で混乱が生じました。実際、現場は大変だったと思います。あれだけのトラブルがおきるとは考えていなかったでしょうから、今後トラブルのないようにするにはどうすべきか、考えないといけませんね。あの機械自体の問題なのか、操作ミスなのか、と細かな詮索をしても仕方がありませんが、緊張の連続が続く、受験生と監督者に負担が少ない方法はないのか、と思います。

2.日本史Bセンター試験について

 高校では、世界史が必修になって以後、日本史での受験者の数は減ってきているのでしょうか?それともたいした変化はないまま、推移しているのでしょうか。そこらが少し気になるところですが、久しぶりにセンター試験にチャレンジしてみました。

第1問 博物館での対話(各時代の雑題:テーマ問題)

 「またまた」というか、この手の対話問題って問題を作成した人も大変ですが、どうも、こういう雰囲気ってありえない感じがするのです。だって、先生はいざ知らず、こんなに立派な答えをする高校生ってあり得ない(!!)って思うのです。解答する前に「シラ〜ッ」となってしまうのです。と言って、こういう問題を予備校の講師をしていた時に作ったことがないなんて言ったら嘘になります。作っている時は結構自分ではおもしろがっていたりするんです。

 さて、問1は、土偶と土偶が作られた時代の信仰に関しての問題。センター試験は、よく読もう!!が、基本でしたよね。Bの誤りは、「墳丘に並べられた」です。だって土偶は縄文時代ですから、古墳時代の墳丘はおかしいです。こういうひっかけというか、別の時代のことをすべり込ませるやり方をセンター試験は以前からずっとやっています。

 問2。奈良時代のことだとまず気づきましょう。正解は@ですよね。A百済の商人であってもいいでしょうが、南アジア産って変です。シルクロードを利用して運ばれたのだけど。B正倉院展は、毎年奈良で開催されます。しかし、問題作成者はネタがなかったんだなぁ〜。大学に入ったら一度行ってみたらどうでしょう。奈良で開かれる正倉院展に。Cは、東大寺です。唐招提寺は、鑑真だもの。

 問3。一挙に時代がバラバラになっています。ここで悩んではいけません。C西が東になっているだけ。ウ〜ム。ネタ切れだな。

 次の会話は、かなりレベルが高い会話ですね。日本史は文献資料(史料)だけでなく、絵画資料(史料)や考古学などから、ずいぶん色々なことがわかってきているのです。高校の図書館にはなかなか揃っていないことが多いでしょうが、絵巻物集成などの高価な本を大きな図書館などに行ってみるとなかなか楽しいですよ。

 問4。どれか、1つが決まると自動的に解答できる。一番わかりやすそうなヒントは「地中から発掘した物から考える」でしょうね。つまり、考古学です。となると考古学があるのは、AとCで、「鎌倉時代に制作された絵巻物」なんだから、Aです。「源氏物語絵巻」は、院政期のものです。高校の先生の中には、この絵巻のミニチュアを授業に持ってきて見せる方もいると思います。私も予備校で、「飛び道具」と称していくつかの絵巻などを見せていました。それこそ京都国立博物館の売店なんかで売っています。もし、このコーナーを読まれている高校の先生がいらっしゃれば、少し高いですがいくつか買って、授業に持ち込んでください。「飛び道具」ですが、生徒は絵+巻物=絵巻物だということを理解してくれます。あ〜「一遍上人絵伝」いいなぁ〜。しかし、何回センターで使っているでしょう。例の市の絵を利用して以来。

 問5。これは簡単。というか、まるっきり引っ掛けですよね。南蛮なんかに誤魔化されないように。狩野派人たちが描いたものが多いのでしたよね。

 問6。並び替えです。Uの文化住宅は、大正〜昭和にかけてですから、これが一番遅い。となると、Uが一番後のものは、@とB。開智学校の写真は、資料集などで見たことがありませんか。1876年に落成しました。ニコライ堂は、1891年です。と言うより、小学校なんですから、こっちの方が早く作られたと考えたらおしまい。


第2問 古代の土木・建築

 なんちゅうテーマじゃあ〜!!なんて思ったらダメ。そういう枠(フレーム)をこしらえているだけです。

 問1。いささか難しいかも知れません。前方後円墳なんだから、丸い方が後ろですよ。この問題文に記されたエピソードは、崇神天皇の時期のことで、「故(かれ)、時人(ときのひと)、其の墓を號(なづ)けて、箸墓と謂ふ。是(こ)の墓は、日(ひる)は人作り、夜は神作る」(『日本書紀』日本古典文学大系、岩波書店)というもので、「ときの人はその墓を名づけて箸墓という。その墓は昼は人が造り、夜は神が造った」(宇治谷猛『日本書紀 全現代語訳』講談社学術文庫)というものです。しかし、こんなことわかるはずないよね。「3世紀の古墳」ということをヒントにするしかないと思います。とすると、前期のあるいは、出現期の古墳で、大きいものと考える必要があります。確かに、山川の『詳説日本史』には、19ページの欄外の脚注に、奈良県の箸墓古墳のことが記されていて、「墳丘長280メートルの前方後円墳」とあります。でも、それを根拠に出題したとしたらあんまりいい問題じゃありません。この辺は地図から判断してdが入っているAかCを選び、大きそうだからCとするしかないと思います。私にすれば、どう考えてもあまりいい問題とは思えないのですが、だって、大きさを示すものが地図にないし、説明文にもないのですから。これで、理解しろたって出来ないよ。

 問2。この並び替えも今ひとついただけません。ヒントを探しましょう。Tは「神格化された天皇」というもので、実在するのかどうかわからないくらいの天皇の時だから一番古いと考えましょう。Uは、「天武期」とあります。それから「難波」でしょう。Vは、「恭仁」と「橘諸兄」UとVではUの方が古いから@となります。

 問3。これは用語理解の問題です。問題文には「図の地域周辺に存在したと考えられる田地の種類」とあります。図は第2問の説明文から「奈良盆地」とありますので、平城京と考えられます。となると、公営田は、大宰府管内に置かれた田ですから誤っていますので、Bが正解です。ただ、私は歴史的な流れをきちんと押さえる問題ではないな、と思います。

 問4。まず、問題文の空欄イのヒントから確定できるはずです。「密教的空間を構成している」。これです。もう私など興奮してしまいます。というか条件反射的に曼荼羅しか出てきません。何しろ密教。真言宗=私の勤務先大学の宗派。お〜お〜真言密教!!!という条件反射です。で、@・Bでどちらを選ぶかです。礎石が基礎ですから、Bとなります。来迎図なら阿弥陀様ですよね。一般的に。ちなみに、醍醐寺五重塔は、その名前だけが山川版『詳説日本史』67ページに載っていますよ。

 問5。醍醐天皇の治世の問題。Aの阿衡の紛議は宇多天皇の時です。要するに、延喜年間のことを理解できているかです。

 問6。@が誤りです。3代の天皇の外祖父は、息子の藤原頼通です。これはボーナス問題。


第3問 中世の人物と物

 問1。「公文所(政所)の初代長官」ですから大江広元ですし、「紀行文」だから『海道記』です。大江たち京都からやってきた人たちを「京下の輩」と言います。よってBが正解。

 問2。この問題も歴史的展開とか言った醍醐味に欠ける問題ですね。『新古今和歌集』=1205年。御成敗式目=1232年。平頼綱滅亡=1293年というわけで、@が正解。

 問3。またなんと古典的な作り方ですね。この問題。違う時代の用語を入れて引っ掛けるという昔ながらの作りかたにいささか感動してしまいます。しかも、センターでよく使う江戸時代の農業の用語「干鰯」とくればね。こういうパターンはお決まりのパターンですから、センターの過去問をきちんとやっておきましょう。

 問4。これはいつもの通り空欄ウのヒントで、確定しておきましょう。『菟玖波集』がヒントです。二条良基ですね。朝鮮からの輸入品は、大蔵経です。ちなみに硫黄は、日本からの輸出品です。ですからCが正解。

 問5。@の鎌倉将軍府は、建武の新政の時ですね。鎌倉府と引っ掛けさせたかったのでしょう。Aの奥州総奉行は、鎌倉幕府の機関です。Bの応永の乱が正しい。Cの永享の乱は、将軍足利義教の時です。

 問6。外交関係に関する問題。これもおなじみの問題ですね。まず、X・Yが何を意味しているのかを考えましょう。Xは、寧波の乱のことです。場所は、aですね。Yは、種子島ですからdです。よってAが正解。bは富山浦、cは坊津です。

第4問 近世の社会・経済

 これはもう、定番の問題というか、ネタ切れしてしまって、同じようなことしか出題できなくなってしまっているのでしょうね。

問1。@は、領主が個々の百姓を直接支配して賦課していたら大変です。Bは、村方三役ですから、名主・組頭・百姓代です。C水呑百姓もいます。よってAが正しい。

問2。Xは、長子単独相続が一般化していきますので誤り。Yは、正しいです。Zも正しいです。ですから、Bが正解。

問3。Cは、非常にちゃっちい引っ掛けです。飢饉になると米が取れないのですから、米価は上がります。下がるなら豊作でないとね。

 問4。伊丹はお酒ですが、野田は醤油でしょう。なんだかご当地クイズやっているみたいです。アが伊丹だと決まれば、@かAに絞られます。国の範囲を越えた大規模な請願運動なんですから、国訴です。よってAが正しい。

問5。A納屋物と蔵物の入れ替えです。B河村瑞賢は、東廻り・西廻り航路です。河川では大坂の安治川を開きました。C五ヵ所商人は、堺・長崎・京都+江戸・大坂です。長崎を平戸に換えただけ。

 問6。C『聖教要録』は、聖人論で、朱子学の解釈を批判した本です。だから、Cが誤り。

第5問 近代の東京

 問1。やたら年代の並び替えが多いですね。でも、これは、きちんとした年代を知らなくても解答できますね。何しろVの美濃部さんは、戦後のことですから、それさえ押さえれば、@かBに絞られます。後は、府が先で市が後に設置されたことくらいはわかるでしょう。よってBが正解。

 問2。@の内務省は、地方行政や治安などの担当です。B神祇官は、祭政一致のために作られました。Cこういうことにならないように、条約改正を急いだのですから、これも誤りです。ですからAが正解。

 問3。どういう意図で、作ったんでしょうね。出題にあたられた方が、息切れしてしまって、ボーナス問題にしてくれたのでしょうか。まさか、@を選べなかった人はいないでしょうね。太陰暦を太陽暦に換えたのですね。

 問4。@の秩父事件は、1884年です。Bのサラリーマンは大正期です。ですから、Cとなります。

第6問 近現代の対外関係

 問1。アは、「江華島事件」の後ですから、日朝修好条規です。イの日清戦争開始直前ですから、甲午農民戦争となり、Cです。アはまず、間違えないと思いますが、甲申事変と甲午農民戦争など、引っ掛けのツボを押さえた問題です。

 問2。@関東都督府は、1906年。関東庁は、1919年設置。A「臥薪嘗胆」は、三国干渉に伴うものですから、日清戦争後です。B台湾出兵は1874年ですから、これが正解。Cの閔妃殺害事件は、1895年の三国干渉後のことです。

 問3。@与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」は、日露戦争に際して。だから@が誤り。

 問4。生糸は、欧米向けの輸出品です。綿製品が、アジア向けです。となれば、BかC。当時の発電は、水力が主でした。ほら、猪苗代水力発電所なんていうのが、教科書にも載っているでしょう。ということで、Bが正解。

 問5。グラフの読み取り問題。といって、そんなに難しいものではありません。輸出が輸入を上回っていれば黒字、その逆なら赤字です。Xの1910〜13年にかけては、輸入の方が輸出をわずかに上回っていますから、赤字ですので正しい。Y1920年代も同じく、輸入が輸出を上回っていますね。ですから赤字です。よって誤り。Zは、世界恐慌は1929年に起きてその影響が及んだのですから正しい。ということでAが正解。

 問6。単一為替レートは、360円です。BかCに絞り込めました。国交回復が1970年代にまでもつれ込んだのですから中国です。ですから、Bが正解。

 問7。サンフランシスコ平和条約に調印しなかった国は、ソ連以外にインド・ビルマ(ミャンマー)などがあります。ですから@が誤り。だいたい、「すべて」という書き方をしている時には疑わないとね。

 問8。これも年代あてクイズですね。@は、1964年のこと。A1954年のことで、これが正解。Bは1971年。Cは敗戦後の1946〜48年です。

3.まとめ

 さて、私としては実に久しぶりにセンター日本史を解きました。腕が落ちていることを痛感しつつ、チャレンジして思ったことは、やはり以前にも書いたことがある内容です。つまり、教科書を中心に、過去問を丁寧にやってみること。これが一番の近道だと思います。すでに、試験としては完全に定着し、安心感があり定評があるセンター試験です。もちろん、今年のヒアリング試験のような問題もあるでしょうが、基本的には問題作成の方法や出題の仕方などに大きな変化はありません。とすれば、パターン化された問題というのは安心感があるということと、出題できるテーマや内容が大きな変更ができないことになりますから、対処の方法としては、過去問をきちんとやるのが一番だと思います。後はせいぜい、センター型の模擬試験で、少しは変わったテーマに慣れておくことだろうと思います。